東京都府中市、九段下のWEB制作会社Maromaroのブログです

2024.05.07

futa

モリサワの「A P-OTF」フォントとは?

モリサワの「A P-OTF」フォントとは? A-OTFとの違いについても

 

デザイナーなら誰しもが触れたことがあるであろう、モリサワフォント。

フォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」を初め、時代のニーズに合わせたフォントサービスをリリースしてきたモリサワですが、今年2024年7月で創業100周年だそうです。すごいですね。

(現在、特設サイトが開設されており随時更新中です。創業者森澤信夫が発明した写植機の紹介等、フォントの歴史に触れることができます。)

そんなマンモスフォントメーカーのフォントですが、やはり2,000書体以上(サブスクリプションの場合)という種類の多さには圧倒されますよね。しかもフォント名が、「A-〇〇」や「G-〇〇」等似たようなものが多くあり、何が違うのか、どれを選んだらいいのか、最初は悩んでしまうと思います。

そんなお悩みを少しでも解決すべく、今回は一番新しい仕様の「A P-OTF」フォントについて、まとめていきます。

フォントの種類について紹介した記事はこちら↓

「A-OTF」から「A P-OTF」へ

モリサワフォント OTF最新事情

100ファミリー、380フォントを超える「A-OTFフォント」を、2019年から2023年にかけて「A P-OTFフォント」として再リリースし、これまでのモリサワの「A-OTFフォント」は、2023年10月にすべてAP版書体「A P-OTFフォント」となりました。

最も注目すべき「A-OTFフォント」からの改良点は、ペアカーニングに対応し、自動の文字詰め機能がより便利になったという点です。

見分け方(フォント名が異なる)

A-OTF  →ペアカーニング情報未搭載(従来のカーニング情報を搭載)
A P-OTF →ペアカーニング情報搭載
(名前表示の例)
  • A-OTF UD新ゴ Pr6N L
  • AP-OTF UD新ゴ Pr6N L

「A-OTFフォント」と「A P-OTFフォント」は名前が「P」があるか無いかの違いだけでとても似ていますが、微妙にデザインの調整・ツメ情報の変更もなされている為仕様が異なり、完全に別書体として扱われます。互換性も無いのでメーカーは置き換えを推奨していません。もしも置き換えをする場合は、詰めが変わって体裁の崩れ等のリスクがあるので注意が必要です。

OTFとは

モリサワフォントのフォント名には「〇-OTF」と記載されているものが多いです。先述の「A P-OTF」への改変でまた「〇-OTF」が増えましたが、「OTF」とは「Open Type Font」の略で、フォントのファイルフォーマットのひとつで、現在最も主流なものです。

「OpenType」は既存のフォントフォーマット「TrueType」(アップル社とマイクロソフト社が共同開発)の拡張版として開発されました。Windows-Mac間での互換性があるのが大きな特徴です。

MacとWindows 間のクロスプラットフォームの実現、文字種の拡大のニーズに応えるため、マイクロソフト社とアドビ社により開発されました。

最大約65,000文字が登録可能で、対応したアプリケーションであればMacとWindowsの両プラットフォームで同一の表示が可能になります。

また、フォントのアウトラインデータを送信して出力を行う「ダイナミックダウンロード」に対応しているため、プリンタフォントを必要とせず、出力時の解像度制限もありません。

TrueTypeフォントと同じく、1フォント=1ファイルのシンプルな構造のため、扱いやすいのも特徴です。

↑モリサワ公式サイトより

(私がデザインで出版業界に入った頃、まだ「NewCIDフォント(プリンタフォントが必要で1フォント=2ファイル構造。2020年サポート終了)」は現役で、「A-OTFフォント」への移行期だったような…。ある意味一時代を跨いだのかも)

A P-OTFフォントの特徴

ペアカーニング情報を搭載

ペアカーニング情報とは、設定された特定の文字の組み合わせ〈ペア〉で動作する、文字詰め機能〈カーニング〉のことです。A P-OTFフォント(以下AP版と呼びます)は、このペアカーニング情報をフォント内に持つことで、どのような文字が組み合わされたとしても、自動的に文字間が調整され最適な文字組みになるように設計されています。隣り合う文字の全てのパターンごとの最適な詰め情報を用意したという事なので、とても膨大な数の設定情報が入っていそうですね。一体何通りあるのでしょうか?

これまでもプロポーショナルフォントであれば、フォント側に1文字に対する左右のアキ・ツメ設定は用意されていて、自動的に文字間の調整は可能なのですが、一定の制限があり、隣り合う文字によって臨機応変にはいかず、タイトル文字等のデザイン性の高い重要な場面では、さらに手作業でカーニングを狭める(広げる)必要がありました。

ペアカーニングの設定方法

  1. 「A P-OTF」が名前の頭についたフォントを選ぶ

  2. 文字パネルのカーニング設定で「メトリクス」を選び、「プロポーショナルメトリクス」の設定(Illustrator:OpenTypeパネル内、InDesign:文字パネルのメニュー内)もチェックを入れる

A1明朝で比べてみました。

違いがわかりますか? 例えば、上のA- OTFは、「グ」と「、」の隙間が広いようです。「ディティール」の「ィ」と「テ」の間はきつそうなので、プロなら手直しです。それに比べ、下のA P-OTFの文字間のカーニングが非常に美しく見た目の隙間が揃っています。

縦書きにもしっかり対応しています。

また、AP版は、「和文等幅」を指定しているときでも、嬉しいことに欧文のペアカーニングが効いているので、汎用性が高いです。

最新のIVS対応で異字体を確実に表示

AP版書体は、最新のIVSに対応しています。複数ある異体字の表示は、環境によってどの形が表示されるかばらつきがあり、同じ形状を確実に表示ができませんでした。

IVS(アイブイエス)とは、Ideographic Variation Sequence(異体字シーケンス)の略称です。詳しくは、公式サイト用語集へ。

従来のかな書体が漢字・英数字を収録し総合書体に

従来、かな(一部の記号含む)のみ収録されていたA-OTFフォントが何個もありましたが、今回それらがあらかじめ漢字や英数字が入った総合書体に変身してくれました。便利になりました。

かな書体をAP版で総合書体化したフォントは、名称の最後に「+」がついています。

かな書体は、これまでIllustratorやInDesignで「合成フォント」の機能を使って別の漢字を収録した書体と組み合わせて使っていました。これらのアプリケーションを使わない環境では、せっかく良いフォントがあっても、ひらがなしか無いので、手作業で漢字だけフォントを置き換える根気を要する作業が必要になります。よって、用途が限られる使いにくいフォントと言えました。
AP版書体になって、総合書体にアップグレードされ、かな・漢字・英数字等そのまま打ち出すことができるようになり、敬遠されずにフォントの雰囲気の変化を楽しめます。

欧文のリデザイン

「UD新ゴ」等一部の書体の欧文や記号がリデザインされました。例えば「A1明朝」は、欧文部分はノーマルな明朝体のデザインでしたが、本体がオールドスタイルなのに合わせて、クラシカルなデザインにリニューアルされています。

その他にも、記号系にもウェイトの変化を持たせる等デザインの調整や変更を行い、さらに本文組で使用されるフォントについては、詰め(プロポーショナルメトリクス)等の見直しがされたという事です。

令和合字を収録

AP版書体では、StdNで一つ(横組みの合字のみ)、ProN, Pr5N, Pr6Nで二つ令和合字を追加しています。令和合字は、2019年10月24日以降にリリースした新書体には収録されています。A-OTFフォント(Std、Pro5, Pr6, Pr6N)には収録されていません。リリース時まだ平成でしたので。

まとめ

数年かけての新仕様AP版書体化のリリースを完了させたモリサワフォント。自動の文字詰め機能をより迅速で便利に、美しい字詰めへと向上させました。デザイナーはグラフィックやエディトリアル等、今後の制作案件では、最新のAP版書体を利用していくと良いでしょう。

注意点としては、AP版書体は「A-OTF」とあくまで別のフォントとなるため、互換性がありませんAP版書体を取り入れていない既存のデザインデータを編集する時は、従来の「A-OTF」を引き続き使うか、文字溢れ等を逐一チェック・修正しながら同名のAP版に置き換えるか、慎重に決める必要があります。「A-OTF」フォントも、まだまだ環境によっては所持しておくのがよいと思います。アクティベート(またはインストール)はしておくと、既存のデータを開いた時の文字化けを防げるので。

以上、futaでした。